自殺というと、あまり目にしたくないテーマと思われる方が多いと思います。一般に頻度が高いことではありませんが、10代から30代の死因の第一位は自殺であり、一時期減少していた自殺者数は2020年に11年ぶりに増加に転じ2021年以降も高止まりしています。自殺には複数の要因が関わっており、支援を行うには様々な職種の力が必要になることがあります。また、慣れない人、知識のない人ほど自殺の危険を過小評価しがちだと言われています。

目の前の人から「死にたい」と打ち明けられた時の、
よくある不十分な対応
「目の前の人から”死にたい”と打ち明けられた時にどうしますか」と問われた際によくある反応として「なぜそう思うのか尋ねる」「とにかくその人の話を聞く」というものがあり、実際にその場面になった時には「聞かなかったことにする」「自殺はダメ、と諭す」「家族が悲しむことを伝える」「命の大切さについて話す」といった対応がとられることがあります。これらは、いずれも不十分な対応です。
「死にたい」という気持ちを持った人と接する時には
TALKの原則
「死にたい」という気持ちを持った人と接する時に、しっかり向き合うための対応としては 、TALKの 原 則 が 役 に 立 ち ま す(参考資料: 文部科学省, 教師が知っておきたい子供の自殺予防https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2009/04/13/1259190_12.pdf)。
TALKはTell、Ask、Listen、Keep safeの頭文字です。
Tell
まず、はっきり言葉に出して「あなたのことを心配している」と伝えます。誠実な態度で話すことが重要ですが、ここで諭すように話しすぎないことも重要です。
Ask
次に、死にたいと思っているかどうかを率直に尋ねます。死にたいと思っている人に死や自殺を話題にして、これによって自殺行動が惹起されるということは決してありません。むしろ、自殺行動のブレーキとなります。
Listen
つづいて、相手の絶望的な気持ちを徹底的に傾聴します。絶望的な気持ちを一生懸命受け止めて聞き役にまわります。とりあえず10分間はしっかり聞くということが一つの目安です。死にたい気持ちを持つ人は、10分間話を聞いてもらったことがない人が多いようです。
Keep safe
ここまでの対応を行ったうえで、やはり自殺のリスクが高いと判断すれば、まず本人の安全を確保して、周囲の人の協力をえて適切な対処をします。ここで、大変な時には周囲の人の協力を得るのだということを実際にやってみせるということも重要です。
自殺の危険因子を確認する
自殺の危険因子を確認する際に、SAD PERSONSスケールが役に立ちます。これは、自殺の危険因子の頭文字です。
Sex – 男性 Age – 年齢:高齢者と思春期 Depression – うつ病
Previous attempt – 自殺企図歴 Ethanol abuse – アルコール、薬物の乱用
Rational thinking loss – 合理的思考の欠如 Social support deficit – 社会的援助の欠如
Organized plan – 練られた計画 No spouse – 配偶者の欠如
Sickness – 慢性の病気
自殺の危険の評価に基づき可能な限り自殺の危険性を減らす、変えられる危険因子から変える、変えられない場合は心理状態を安定させる、という視点が必要になります。自殺の原因はこれ!と特定しがちですが、直線的な考え方は馴染みません。自殺の原因を問わない、自殺に関わる複数の要因を探る、そして要因をできるだけ減らすことを考えます。周囲の人に求められることは、まず一つに、「孤立しない、孤立させない」、寄り添うということ。危機的な状況では、わずかな支援が大きな力になることを自覚するということ。次に、「希望を持ち続ける」ということ。私たちが生き残るという事が重要です。

内田先生の著書の紹介

早合点認知症
内田直樹 著
「もの忘れ=認知症」は早合点!名医たちが認知症の”見立て”を学びにくる認知症専門医による「認知症の本当の話」、「認知症かも?」と思ったとき、最初にすべきこととは?周囲との関わり方は?誤解と早合点に満ちた認知症の全貌がこの一冊に。
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