ばあちゃんプロフィール
菅原順子さん(82歳)。北海道・稚内市にあるローカルスーパー「相沢食料百貨店」。地域の台所として長年親しまれてきたこのお店で、清掃スタッフとして働く順子さん。いまも、まごころを込めた“まかない”を作り続けています。スーパーを支える、ひとりのばあちゃんを取材しました。
北の台所で育まれた「無駄にしない知恵」
順子さんが生まれ育ったのは、北海道最北端のまち・稚内。遠くに利尻富士を眺めながら育ち、戦後まもない時代に、食材を大切にすることを自然と身につけたといいます。家では料理上手なお母さんが、手打ちのうどんやそばをこねるのが日常の光景。
「ものが少なかったからこそ、食べ物を大切にするのが当たり前だった」と語ります。
その精神は今も変わらず。料理で余った野菜は別のおかずにリメイクし、スライサーは使わず包丁で丁寧に切る。「手で切った方が、水分が出すぎず、ちゃんと味が残るの」と微笑みます。スーパーのまかないとまごころの味を支えています。

順子さんがつくる「まかない味噌汁」
順子さんは、清掃スタッフとして働くかたわら、社員の昼食となる「まかない味噌汁」を担当しています。
きっかけは、2021年のある日。社長が休憩室のゴミ箱に積み上がったカップ麺の容器を目にしたことから始まりました。
「お客様に“身体にやさしい食”をおすすめしているのに、私たちがこれではだめだ」
そう感じた社長の一声で、順子さんが味噌汁を作るようになったのです。それは、まさに「同僚に愛の健康味噌汁」。春は山菜、冬は生姜や根菜。鮮魚売場で出た魚のあらや見切り野菜など、無駄のない食材選びと工夫で、毎日飽きのこない味噌汁を作ってくれます。
「特に店内が冷え込む冬の寒い日に、この一杯にどれほど救われたかわかりません」
と、従業員のみなさんも口をそろえます。

82歳、まだまだ現役。
「ここのトイレ、いつも綺麗ですねってお客様に言われた時、嬉しくてね。」
まかない料理も掃除も同じ。人が気持ちよく過ごせるように動く順子さん。菅原さんの好きな言葉は、この二つ。
「“おはよう”は、一日が気持ちよく始まる言葉。“ありがとう”は、人の心をやわらかくする言葉。」
まかない味噌汁を通して、菅原さんが伝えているのは、そんな日々の小さな思いやりでした。それが職場の空気をあたため、みんなの笑顔をつくっています。

あとがき
「まかない味噌汁」が、こんなにも人を支え、つなぎ、あたためている。菅原さんの姿から、働くことと生きることの重なりを感じました。長年の仕事は、単なる労働ではなく、地域に生きるひとりの人としての誇りであり、愛情のかたちなのだと、順子さんに教えてもらった気がします。食べること、働くこと、そして交わされる「ありがとう」「おはよう」。それらがきっと、地域とスーパーを、そして人と人をつないでいるのだと思います。(取材担当より)
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