じいちゃんプロフィール
森 義彦(モリヨシヒコ)76歳。1949年、静岡県静岡市の山あい、鍵穴で生まれる。幼少期は自然の中でのびのびと育ち、川や山で遊ぶ日々を過ごした。高校を卒業後、就職するも、20歳で「体を壊したこと」をきっかけに人生の転機を迎える。焼き物の世界に惹かれ、陶芸の修行へと進む。以来50年近く、作品に向き合い、真理を探究してきた。
山の中で育った少年時代
義彦さんの原風景には、静岡の山々があります。「子どもの頃は、山とか川で遊んでたね。家の周りは自然ばかり。」そう語る表情は、まるで少年のようです。地元の中学校に通い、高校は遠く離れた商業高校へ進学。「自転車とバスと徒歩で1時間。通学は遠かったよ。」と話します。 そんな、自然とともに過ごした日々は、 後の陶芸家としての感性を育んだに違いありません。

焼き物との出会い
高校卒業後は就職し、社会人としての生活が始まりました。ですが、無理がたたり体調を崩してしまいます。心身ともに疲れたとき、出会った“焼き物”が、義彦さんの人生を大きく変えることになります。「20歳のときに、焼き物をやってみようと思ってね。」そこから8年間程、日本を旅して周りはじめました。 沖縄復帰の翌年、海辺の集落を歩きながら、土と火の生命力を強く感じたといいます。
「焼き物を巡る旅だったね。富士五湖、笠間、益子…。 いろんな土地でいろんな土を見て学んだよ。」旅の話をするとき、義彦さんの目は輝いていました。「特に何がってわけじゃないけど、全部楽しかったね。」

探求の果てに生まれたきよさわ焼き
29歳で故郷・静岡に戻り、窯を構えました。さらに、1年間静岡大学で、哲学や心理学を学びました。 昼間は学び、夜は土をこね、火を見つめる日々。「制作して売るのが大変だったね。当時は静岡で 焼き物をやってる人なんてほとんどいなかったから。」
試行錯誤を重ねながらも、自らの芸術を探求しました。「良い作品を作り続けていけば、わかってくれる人がいる。」そう信じて、作品を通して静かに問い続け、独自の作品であるきよさわ焼きに辿り着きました。特徴的な青色は、みかんの灰と釉薬によるものであり、どこか温かみを感じます。
真理を探求せよ
芸術を極める義彦さんに、「若者に言いたいことはありますか?」と聞いてみました。すると、少し考え「真理を探求して正直に生きてほしいね。」と言います。 義彦さんが大切にしている生き方です。「物事を行うとき、相手に対しても、自分に対しても正直に。そうすれば平和な世界になると思うんだ。」
森さんの哲学は、陶芸だけでなく生き方そのものです。「自分だけ得しないで、外に分け与えればいい。そうやって回していけば、世界は循環する。AからB、BからCへね。コンピュータの2進数だね。」土から器を生み出し、また土に還すように。その思想は、自然とともに生きてきた人生に重なります。

あとがき
今回取材した森義彦さんは、私の従伯父(父の従兄弟)にあたるじいちゃんです。独自の感性と、大衆に迎合しない性格から、一族ではちょっとした有名人。 私はそんなところに惹かれ、月に1度ほど一緒に美術館を訪れます。展示を眺めながら、義彦さんは決まってこう言います。「真理を探求しなさい。」その一言が、ずっと頭に残っています。 静かに、しかし確かに、彼の生き方そのものが哲学なのだと思います。
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