家族と料理に生きてきた75年。「逃げ場」が教えてくれた幸せのかたち。- ばあちゃん新聞Web版

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ばあちゃんプロフィール
平川クミコ（ヒラカワクミコ）
1949年2月生まれ。75歳（2025年取材時）。長崎県島原市出身。18歳のときに祖父の縁で福岡へ移り、病院の調理師として働き始める。結婚後も仕事を続け、2人の息子を育てながら家庭と職場を行き来する日々を過ごした。現在は小規模多機能ホーム「なごみの家しかた」に通い「ばあちゃん喫茶」で料理を担当。優しく、穏やかで、どこか芯の通ったばあちゃん。

病院が「逃げ場」だった若き日々

18歳のとき、島原から福岡へ。祖父が開業医だった縁で、病院で働くようになった平川さん。最初は慣れない土地と仕事に戸惑いながらも、厨房で包丁を握るうちに「料理って楽しい」と思うようになりました。やがて結婚し、2人の息子を育てながら、病院の調理師として働き続けました。

「姑さんが厳しくてね、昔の人だから大変だったのよ」と笑う平川さん。当時は保育園に子どもを預けてから病院へ行く毎日。家に帰れば家事、寝るのは深夜。そんな中でも「病院が癒しの場所でした」と振り返ります。家庭が息苦しくなるとき、同僚と交わす会話や温かい食事が心を支えてくれたのだそうです。「どこかに逃げ場があるのは大切ですね」。その穏やかな言葉に、75年の人生で培われた優しさと強さがにじみます。

「料理で誰かを喜ばせたい」その思いがつないだ居場所

長年勤めた病院を、足の痛みで定年前に退職。働きづめだった日々が終わると、ぽっかりと心に穴が空いたようでした。そんな折、地域の小規模多機能ホーム「なごみの家しかた」に通うようになったことが、第二の人生のきっかけになります。「そこで“ばあちゃん喫茶”のことを知って、声をかけてもらったんです。」調理師として長年腕をふるってきた平川さんにとって、再び台所に立つ時間は喜びそのものでした。8年前に夫を亡くしてから、家で料理をすることが減っていたといいます。「1人分って、作る気にならないんですよ。でも、ここではおいしいねって言ってもらえる。それが嬉しくて。」ばあちゃん喫茶では、地域のおばあちゃんたちが交代で働き、空き家を活用して営業しています。「役割があると、また元気が出るんです。」平川さんはそう微笑みながら、今日も温かい定食を手際よく盛り付けます。お客さんの笑顔を見つめる目は、どこか息子を見守るようです。

ばあちゃん喫茶と、これからの楽しみ

「ばあちゃん喫茶」は、地域のばあちゃんたちが店員として働く喫茶店です。認知症や介護を受けていても、役割があれば輝けるという思いから始まりました。家庭的なランチ、あたたかい会話、そして働く人たちの笑顔がまちの交流を生んでいます。平川さんはその中心で、いつも明るく台所に立ちます。「お客さんが来てくれると、美味しく作ろうって気持ちになるんです。」料理が人をつなぎ、人生の張り合いをつくる。そんな姿は、多くの人に勇気を与えています。「今はね、コーヒーを飲む時間が楽しみなの。」静かに笑うその表情には、長い年月を乗り越えてきた穏やかな誇りがありました。まだまだ現役。今日も賄いの定食をペロリとたいらげるその元気さが、人生そのものを語っています。

あとがき

こんにちは。「うきはの宝」で10日間の住み込みインターンをしている、静岡から来たもーりーです。今回は「ばあちゃん喫茶」で出会った平川クミコさんにお話を伺いました。印象的だったのは、「どこかに逃げ場があるのは大切」という言葉。家庭も仕事も全力で生きてきた彼女だからこそ、その一言には深い重みがあります。誰かのために料理を作り、感謝される喜びを糧にして生きてきた平川さん。人生の節々で「逃げ場」となった病院や喫茶店は、同時に“生きる力を取り戻す場所”でもあったのだと思います。精神的に病む若者が増えてきた時代。どこかに逃げ場を見つけることの大切さを平川さんが教えてくれました。
取材の終わりに「今でも食欲は旺盛なのよ」と笑いながら定食を完食した姿に、心が温まりました。誰かのために働き、笑い、食べる。そんな平川さんの生き方こそ、日々を健やかに生きるヒントなのかもしれません。